レビュー02昨年末、北京オリンピック金メダリスト・北島康介選手のコーチをしている東京スイミングセンター所属の平井伯昌氏について取り上げたNHKの番組がありました。

その番組の中で、平井氏の著書『見抜く力-夢を叶えるコーチング-』(幻冬舎新書、2008年)が紹介されたので、購入して読みました。

平井氏は、背泳ぎの中村礼子選手、自由形の上田春佳選手選手のコーチでもあります。それぞれ全くタイプの違った選手を指導しています。当然、指導法も違います。
「コーチとして、私が指導をするときに気をつけているのは、何よりも選手自身の人間性を把握し、本質を見抜くということ、それが一番の原点だと考えている。それができていないと、それぞれの選手に対応することもできないし、お互いの信頼関係も築くことができない。それができて初めて、きつい練習にも耐えることができるし、困難なハードルを乗り越えることもできる」と、序文に記しておられます。

平井氏は、出来ないのが当たり前、どうしてこれが出来るのかという発想をするのだそうです。そうすると、より深い観察と工夫が生まれて来ます。

驚いたのは、平井氏が中学2年生の北島選手のコーチになった時、「がりがりに痩せて体も硬かったし、泳ぎのセンスも飛びぬけていたわけではなかった。どちらかというと、泳ぎには向かない体だった」(67頁)という文章です。なのに何故、北島選手のコーチになったのかといえば、それは北島選手が平井氏の目を見、全身を耳にして聞く「吸収力、集中力」を持っていたからだそうです。

最終章に、「成功をパターン化するな」という項があります(157頁)。そこに、平井氏が東京スイミングセンターの大先輩・青木先生から「信長は同じ成功をしないようにしていた。それには大変な努力が必要なんだぞ」と教えていただいたと記されています。

信長は、桶狭間の合戦で自軍の10倍以上の今川の大軍に奇襲を用い、義元を討ち果たしましたが、それ以後、多勢に無勢の戦はしなかったということです。

いい結果が出た時に、しっかりとその理由を分析して、同じパターンを繰り返さないようにしなければ、今よりも良い成績を上げること、さらに記録を伸ばしていくことは出来ません。
次に進むために、敢えて成功例を捨て、新たな戦略に取り組んだからこそ、アテネに続き、北京でも金メダルが取れたというわけです。

この本には、超一流の選手を育てたコーチならではの金言がちりばめられています。教会も幼稚園も、すべて人間関係によって成り立ち、人間関係によって仕事が進められます。

ソロモンは神に、「あなたの民を正しく裁き、善と悪を判断することができるように、この僕に聞き分ける心をお与えください」と求めましたが(列王記上3章9節)、ここにいう「聞き分ける心」こそ、平井氏の「見抜く力」のことだなあと思います。私たちも、そのような目、そのような耳、そのような心を持ちたいものだと思います。