「その日には、万軍の主が民の残りの者にとって、麗しい冠、輝く花輪となられる。」 イザヤ書28章5節

 1節に、「災いだ、エフライムの酔いどれの誇る冠は」とあります。エフライムとは北イスラエルのこと、「冠」は、北イスラエルの首都サマリアを指します。4節の「肥沃な谷にある丘を飾っているその麗しい輝き」もサマリアのことを指しているといってよいでしょう。

 ところが、3節で、「エフライムの酔いどれの誇る冠を、御足で踏みにじられる」と言われます。宴会の客が身につけていた花の冠が、いつしか投げ落とされ、踏みにじられてしまうように、サマリアの町、そして北イスラエルは、「激しく降る雹、破壊をもたらす大風、激しく押し流す洪水のよう」(2節)な主の御手によって、地に投げ倒されてしまうのです。

 北イスラエルの指導者たちは、真の神に聴き従わず、空しい偶像に迷って主の怒りを招き、滅ぼされてしまいました(列王記上12章25節以下、13章33,34節、17章7節以下など参照)。つまり、真の神に依り頼まず、偶像を礼拝し、またシリアとの連合に依り頼もうとする姿勢を、ときの徴を見分けることが出来ずに酔っ払ってふらふらしている「酔いどれ」と断罪しているわけです。

 7節で「彼らもまた、ぶどう酒を飲んでよろめき、濃い酒のゆえに迷う」というのは、「エフライムの酔いどれ」(1節)のように、「彼らもまた」(7節)ということで、これは、サマリアの人々ではなく、南ユダ、エルサレムの住民のことを指しています。

 さらに、「祭司も預言者も濃い酒を飲んでよろめき、ぶどう酒に飲まれてしまう」(7節)と、民を指導すべき祭司や預言者たちまでも、まともな判断が出来なくなっているという様子を思い浮かべます。指導者がそのような有様であるならば、北イスラエルに災いが臨んだように、南ユダ、エルサレムにも災いが及ぶことになるということで、全く嘆かわしい状況です。

 つまり、イザヤの目には、南ユダ王国の指導者も、サマリアの指導者と同様、まことの神に信頼せず、あるときはアッシリア、またあるときはエジプト、エチオピア(クシュ)、あるいはバビロンと、国を守る算段のために右顧左眄している様子が、道に迷っていると映っていて、だから、北イスラエルがアッシリアに滅ぼされたように、南ユダも「踏みにじられる」というわけです(18節)。

 10節の、「ツァウ・ラ・ツァウ、ツァウ・ラ・ツァウ。カウ・ラ・カウ、カウ・ラ・カウ」という言葉は、祭司、預言者たちが酒に酔っているような状況で語った「異言」(第一コリント13章1節、14章2,7,9節等参照)のようなものでしょうか。意味不明な言葉は耳障りで騒がしいだけということです。

 それに対して、主なる神は、「これこそが安息である。疲れた者に安息を与えよ。これこそ憩いの場だ」(12節)と語っておられますが、しかし、ユダの民、エルサレムの祭司、預言者たちはそれを聞こうとしません。ゆえに、主の御声が、10節の祭司たちと同じ言葉になっています。つまり、主の御言葉は彼らにとって、「どもる唇と異国の言葉」(11節)、即ち「異言」としか思えなかったわけです。

 彼らには、神の言葉を「聞く耳」がなかったため(マルコ4章9節参照)、「彼らは歩むとき、つまずいて倒れ、打ち砕かれ、罠にかかって捕えられる」(13節)ことになるのです。

 5~6節は、1節以下の「災い」の宣告とは全く対照的な、救いの宣言になっています。冒頭の言葉(5節)で、「民の残りの者」という言葉は、災いの到来から逃げ延びた人々、あるいは、捕囚となって生き延びた人々のこと、特にここでは、南ユダの人々だけでなく、北イスラエルの民の中にも「残りの者」がいるということを示唆しています。

 神は、御自分が選ばれた神の民イスラエルが、その指導者の罪のゆえに全く滅び去るのを看過されず、憐れみをもって臨まれます。そして、万軍の主ご自身が、「麗しい冠、輝く花輪」(5節)、即ちエルサレムの誇る冠となられるのです。

 それを16節では、「一つの石をシオンに据える。これは試みを経た石、堅く据えられた礎の、貴い石だ。信ずる者は慌てることはない」と言っています。これは、「家を建てる者の退けた石が、隅の親石となった」(詩編118編22節)という御言葉を思わせる発言です。

 そして、この詩編の言葉が主イエスによって引用され(マタイ福音書21章42節)、「家を建てる者」とは当時の指導者たち、そして、「石」とは主イエスのことと考えられています。

 主イエスを信じ、その御言葉に聴き従うことが出来る者は幸いです。主が私たちの麗しい冠、輝く花輪となってくださるからです。

 主よ、御言葉を聞くだけで終わる者ではなく、聞いて行う者とならせていただくことが出来ますように。主に信頼し、いつも喜び、絶えず祈り、どんなことも感謝する信仰に導いてください。 アーメン