「サムエルが死んだので、全イスラエルは集まり、彼を悼み、ラマにある彼の家に葬った。ダビデは立ってパランの荒れ野に下った。」 サムエル記上25章1節

 イスラエルの精神的な支柱であった預言者サムエルが亡くなりました(1節)。サムエルは、宗教が乱れ、預言も幻も少なくなってしまっていたときに、神がお立てになった預言者であり(3章1節以下)、新しく王が立てられるまでの間、イスラエルをために裁きを行った(7章)、いわば最後に登場した「士師」でした。彼は、生涯主と共に歩み、使命を全うしました。

 しかしながら、息子たちがその道を歩まなかったので(8章3節)、民は王を求めるようになりました(同5節)。サムエルは、民の求めに応じて王を立てました(8~11章)。王を宗教的に指導するのは、預言者の務めです。しかし、初代の王サウルは、サムエルの言葉に従いませんでした(13章8節以下、15章)。そのために、サムエルはサウルを王としたことを嘆き、彼から離れます(15章35節)。

 前にも学んだとおり、サムエルは、王を立てることに賛成ではありませんでした(8章6節以下)。しかし、サウルが王位から退けられたとき、やはり王は必要なかった、主が王なのだ、とは考えていません。むしろ、サウルが神に従い、正しく民を導くことに期待をかけていたために、それが適わなくなって嘆いていたわけです。

 サムエルは、サウルに次いで立てられる王として、主がお選びになったダビデに油を注いだ後(16章13節)、表舞台から退きます。サウル王とは全く没交渉になりました。「幻がなければ、民は堕落する(口語訳:「預言がなければ、民はわがままに振る舞う」)。教えを守る者は幸いである」(箴言29章18節)という御言葉がありますが、預言者サムエルの指導を受けられなくなったサウルは、道を誤り、わがままに振る舞うようになります。

 即ち、王位を守り、サウル王朝を築くため、それを危うくしかねないダビデを殺すことに血眼になるのです(20章31節)。政治は二の次で、絶えずダビデの命を狙います。ダビデに協力したというかどで、祭司アヒメレクの一族と、彼らが住んでいたノブの町を剣にかけて滅ぼすこともしました(22章18,19節)。これでは、神を味方につけるのは不可能です。サウルが王位から退けられるのも当然で、自業自得と言わざるを得ません。

 神は、彼が神に聞き従おうとしないので、彼のするままに任せておられます(ローマ1書24節参照)。神とつながっていなければ、実を結ぶことは出来ません(ヨハネ15章5節)。やがて切り捨てられ、消えない火の中に投げ込まれてしまうのです(同6節)。

 サウルは、アマレクの一件以降(15章)、一度だけサムエルの前に行きました。そのとき、サウルの上に激しく神の霊が下り、預言する状態になりました。しかしそれは、サウルがサムエルに託宣を求めたのでも、自ら預言することを望んだわけでもありません。ダビデがラマにいたサムエルのもとに逃げたので、追いかけて行っただけのことです(19章18節以下)。

 そのとき、サウルに神の霊が降って預言する状態になり、そのままラマのナヨトまで歩きました。そして、サムエルの前で丸一昼夜、着物を脱ぎ捨て、裸で倒れていました(同24節)。それは、自分の真の姿を見せつけられ、神の前に悔い改めることを、主なる神が望まれたのだと思います。けれども、残念ながら、サウルはそこで悔い改めることが出来ませんでした。

 こうして、預言者サムエルは神のもとに召されました(1節)。サウルは、サムエルと和解する機会を永久に失ってしまいました。それは、神と和解する道が最後的に閉ざされてしまったということでもあります。

 主の霊がサウルから離れ、悪霊が彼をさいなむようになったとき、ダビデが竪琴を奏で、サウルを癒していましたが(16章14節以下、23節)、そのダビデに殺意を抱くようになりました。また、上にも記したとおり、祭司アヒメレクの一族を滅ぼしてしまいました。そして、自分に油を注いで王としてくれた預言者サムエルが亡くなりました。もはや、サウルの周囲には、主の託宣を告げる者、主に執り成しをする者が誰もいなくなってしまったのです。

 しかしながら、今一番の問題は、サウル自身が、ここに至ってもなお悔い改めて神と和解しよう、誠心誠意主の導きに従おうとは考えていないということです。

 「今日」という日に、心を頑なにすることがないように、絶えず神の御声に耳を傾け、御言葉に従って歩ませていただきましょう(ヘブライ書3章7節以下、同4章2節)。

 主よ、愚かで罪深い私を憐れみ、罪を赦して下さい。キリストの血潮により、不義から清めて下さい。私の耳を開き、御声を聴かせて下さい。私の唇を開き、賛美のいけにえを献げさせて下さい。恵みに与り、時宜に適った助けを頂くために、御座に近づかせて下さい。 アーメン