「心を騒がせるな。神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい。」 ヨハネによる福音書14章1節

 「心を騒がせるな」という言葉が、冒頭の言葉(1節)と27節に記されています。言葉が繰り返されるということは、それが重要であるということでしょう。あるいは、弟子たちの心が騒いでいるということを示しているのかも知れません。

 「心が騒ぐ」のは、思いが千々に乱れるからです。原語は、「かき混ぜる(タラッソー)」という動詞の受身形が使われています。この部分を直訳すると、「あなたがたの心がかき混ぜられないように」となります。自分の思いや知識、経験を超えた出来事で、心がかき回される、かき混ぜられるということです。嵐の海にもまれる小船の中で、どうすればよいのか、と思い煩う心の状態です。

 というのも、主イエスが繰り返し、自分を遣わされた方のところに帰る、地上を去る、わたしを探しても見つけることが出来ない、と語っておられ、その時がいよいよやって来たからです(13章1節参照)。主イエスが天に帰られた後、この地上に残される弟子たちに、どのような運命が待ち受けているのでしょうか。それを考えると、「心を騒がせるな」というのは無理な相談ではないか、心を騒がせるのは当然ではないか、と思われます。
 
 この、「心を騒がせるな」という言葉に付随して語られている言葉に注目しましょう。1節では、「神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい」と言われます。足もとが揺すぶられている中で、視線が定まらなければ、目が回ってしまいます。そんな時、「わたしのほうを見なさい」と仰る方に目を向けることが出来れば、荒れる海を見なくてすみます。心を騒がせる必要がなくなります。

 ペトロたちが荒れる海の上で「もうだめだ」と思ったとき、船の艫のほうで眠っておられる主イエスを見出し、文句を言います(マルコ福音書4章35節以下、38節)。しかし、彼らが主イエスに集中したとき、風はすっかり凪いでしまいました。問題の中で主に目を向け、御名を呼び求め、問題を打ち明けると、そこに主が介入して下さるのです。

 「あなたがたの心がかき乱されないように」という文章で、「あなたがたの(フモーン)」は複数形ですが、「心(カルディア)」は単数形、そして、「かき乱されないように(メー・タラッセスソウ)」というのも、三人称単数の動詞の命令形が用いられています。人々の心が嵐にかき回されて千々に乱れ、ばらばらになっているというのではなくて、むしろ、一つの心、一つの思いになるようにという言葉遣いです。 

 27節には、「わたしは、平和をあなたがたに残し、わたしの平和を与える。わたしはこれを、世が与えるように与えるのではない。心を騒がせるな。おびえるな」と言われています。世が与える平和、平安はこの地上のもので、状況が変わればすぐに失われてしまいます。心が騒ぎ、おびえ、不安になるのです。

 もしも、その平和、平安が自分の心の状態を指すものであれば、それを脅かすものは、枚挙に暇なく、不安や恐れは海の波のように絶えず押し寄せてきます。しかし、主イエスが語られたのは、私の心が安定しているか、平和に保たれているかということではありません。主イエスと父なる神との間にある平和のことです。

 主イエスと父なる神との平和の関係を壊しうるものはありません。私たちの罪を身に受けることによって、神に呪われ、捨てられた主イエスは、甦らされて神の右の座に着かれました。私たちの罪も、死も、主イエスと父なる神との関係を壊すことが出来なかったのです。

 私たちは、この平和、主イエスと父なる神との間にある平和の関係を頂いて、私たちの主イエスの間に、私たちと父なる神との間に、平和の関係を持たせて頂くことが出来るのです。そしてその平和は、何ものをもっても、奪われたり、破壊されたりすることが出来ないのです。

 そのことの保障として、「別の弁護者(アロス・パラクレートス)」、すなわち「真理の霊(ト・プネウマ・テース・アレーテイアス)」を与えて下さいます(16,17節)。この方が共(パラ)にあり、内(エン)にいて(17節)、すべてのことを教え、主イエスが話されたことを思い起こさせて下さいます(26節)。そうして、いつも主イエスに心を向けるように、私たちを助けて下さるわけです。

 御霊の助けを得て、常に主を仰ぎ、御言葉に耳を傾けましょう。心に、主の平和を満たしていただきましょう。 

 主よ、心を騒がせるなとの御言葉を感謝します。私たちが心を騒がせていることを、あなたが知っていて下さるからです。そして、心を騒せないでもよいように、真理の御霊をお遣わし下さり、その御霊を通して神の愛を私の心に注ぎ、平和の関係を確認させてくださいます。絶えず、主の御顔を仰がせてください。その御声を聴かせてください。御心に歩ませてください。御名が崇められますように。 アーメン