「過越祭の六日前に、イエスはベタニアに行かれた。そこには、イエスが死者の中からよみがえらせたラザロがいた。」 ヨハネによる福音書12章1節

 冒頭の言葉(1節)にあるとおり、過越祭の六日前、即ち、「受難週」が始まる直前に、主イエスはベタニア村へ行かれました。そこには、「マリアとその姉妹マルタ」の住む家があり(11章1節)、その兄弟ラザロもいました。ラザロは、主イエスに死者の中から甦らせていただいたのです。主イエスを迎えたマリアの家では、もてなしの用意が整えられ、いつものようのマルタが給仕をしています(ルカ福音書10章38節以下参照)。

 ラザロは、主イエスと共に食事の席に着いていました。そこに、マリアが高価なナルドの香油1リトラ(=326g)を持って来て、イエスの足に塗り、髪でそれをぬぐいました。用いられた香油の多さで、ほのかに薫るどころか、その香りで家中が一杯になったと、3節に記されています。

 イスカリオテのユダが、それをたしなめて、「なぜ、この香油を三百デナリオンで売って、貧しい人々に施さなかったのか」と言いました(5節)。主イエスに使うのは勿体ない、ということではなかったろうと思います。ほんの少しを使った後、残りを売って、という話だと思います。

 300デナリオンと言えば、労働者のおよそ1年分の賃金に相当するものです。300万円にもなるというところでしょうか。香油のことなどよく分かりませんが、現在の香水は、1/4オンス(=7.5ml)1万3千円ほど、1オンス(=30ml)は割安で、3万3千円ほどだというネットの記事がありました。1オンスは28.35gという重さの単位でもあるので、それで計算すれば、香油1リトラは38万円ほどということになります。

 勿論、香油の原材料、そしてどういうブランドかということによって、値段は全く違ったものになるでしょう。マリアが持って来た、「純粋で非常に高価なナルドの香油」(3節)というのは、通常の10倍といった高価なものだったのかも知れません。
 
 香水1オンス30mlのボトルは、かなり大きなものになるということで、1/4オンス入の香水が売られているわけです。一滴の香油で、5時間ほどその香りを楽しむことができる、逆に大量に使ってしまえば、よい香りも悪臭となると言われるそうです。となると、香油1リトラ300g以上のものを一度に使えば、その香りはどれほどのものになったのでしょう。

 ただ、主イエスはこの香油のプレゼントを、「わたしの葬りの日のために取って置いたのだから」と言われて喜ばれました(7節)。勿論、マリアは、主イエスの葬りのためにと考えて、香油を足に塗って差し上げたわけではないでしょう。もともとイスラエルには、尊敬する人に香油を塗るという習慣がありましたし、なにより、兄弟ラザロを甦らせていただいた大恩人です。

 自分の持っている最高のもので、主イエスをもてなし、感謝の思いを表わしたいと考えていたに違いありません。その意味では、マルタが調えた料理も、最高級のものだったのではないでしょうか。それが、主イエスの十字架の死と葬りへの何よりの餞となったと言われるのです。

 そこには、もう一人、大切な人物がいます。それはラザロです。彼は何もしていません。最初に記したとおり、「イエスと共に食事の席に着いた人々の中にいた」だけです。大恩ある主イエスのために、彼こそかいがいしく働かなければならないのではと思いますが、病み上がりと申しますか、死んで甦らされた身の上だから、何もしないで座っていなさい、とでも言われていたのかもしれません。

 そのうえ、彼は聖書の中では一言も発していないのです。したことといえば、主イエスに「ラザロ、出て来なさい」と言われて、葬られていた墓から、布にまかれたまま出て来たことと、それから今、食事の席についている人々の中にいることだけです。

 しかしながら、ラザロがそこに座っていることで、主イエスこそ神の御子、救い主であることが、何よりも雄弁に物語られています。主イエスが墓から呼び出した死者が今生きて、主イエスと一緒に食事の席に着いているのです。大群衆がそれを見ようと集まったと言われます(9節)。

 香油の香り溢れる家に主イエスがおられ、精一杯のもてなし料理が調えられ、感謝を込めて給仕する姉妹がおり、そして、主の御力を無言のまま力強く証しする兄弟がいる。どんなに豊かな交わりとなったでしょうか。

 私たちも、今その主の御力で生かされています。私たちも主の復活と命の証し人なのです。今、復活の主と共に食卓を囲んでいるのです。最もよきものを主にささげて、主イエスを愛する喜びと感謝が満ち溢れる家にしましょう。

 主よ、私のような者も主の証人として選び、招いて下さって感謝します。主に愛され、恵みによって生かされています。主を喜び、感謝して、日を過ごさせて下さい。よきものを主にささげることが出来ますように。 アーメン