「ハマンは、モルデカイが自分にひざまずいて敬礼しないのを見て、腹を立てていた。」 エステル記3章5節


 ユダヤ人のエステルが王妃となり、その後見人役のモルデカイが王への謀反を未然に防ぐ重要な役割を果たして、いかにペルシアにとってユダヤ人の存在が有益なものであるかが示されました。しかし、エステルの出自は秘められており(2章20節)、モルデカイの功績は宮廷日誌には記されたものの、表彰されませんでした(6章3節参照)。

 その後、アガグ人ハメダタの子ハマンが引き立てられ、「同僚の大臣のだれよりも高い地位」、即ち首相の座につけられました(1節)。そして王は、自分が選んだハマンの前にすべての者が膝をかがめて敬礼するように、勅令を発したのです(2節)。

 ところが、モルデカイは、ハマンに跪かず、敬礼しませんでした。王宮の役人たちから促されたとき、自分がユダヤ人であることを理由に、それを断りました(3,4節)。それは、ハマンがイスラエルに古くから敵対して来たアマレク人の王アガグの子孫だったからでしょう(出エジプト17章8節以下、サムエル記上15章8節)。

 イスラエルの王サウルは、主の命に背き、アガグ王に手を下しませんでしたが、そのことがサウルを王の座から退ける結果となりました(サム上15章11節)。モルデカイは、サウル王の属していたベニヤミン族の出身ですから(2章5節)、深い因縁がそこにはあります。

 エステルには出自を明らかにしないようにと命じていたモルデカイですが、このことに対して曖昧な態度をとることが出来なかったわけです。しかし、王の命令に背くその頑固なまでの態度が、ペルシア帝国内に住むすべてのユダヤ人を窮地に陥れることになります。

 ハマンは、モルデカイが自分にひざまずいて敬礼しないのを見て腹を立て(5節)、その理由がモルデカイがユダヤ人だからということを知って、ユダヤ人を一人残らず根絶やしすることを決意します(6節)。ハマンがそのように考えていたとは思えませんが、それはまるで、父祖アガグのための弔い合戦のようです(サム上15章33節参照)。

 ハマンは恐らく占い師にくじを投げさせ(7節)、ユダヤ人を絶滅させる日を決めます。それは、12月の13日に決まりました(7,13節)。それから、クセルクセス王に、ユダヤ人がいかに有害無益な民であるかということ、それにひきかえ、自分は王に銀1万キカル(約342トン≒今日現在240億円)を差し出すことの出来る有益な存在であるということを表明し、ユダヤ人根絶を進言しました(8,9節)。

 ハマンが首相に取り立てられた背景に、こうした資金力がものを言っていたのかも知れません。そして、王はハマンに、ユダヤ人を思い通りにしてよいというお墨付きを与えます(10節)。

 早速勅書が作られ、帝国内各州の長官、各民族の首長に送られます(12節)。ユダヤ人絶滅計画実行まで、猶予期間は11ヶ月です(13節)。けれども、ペルシアの民はこの決定を喜んだわけではなく、首都スサにおいて混乱を引き起こしました(15節)。つまり、ペルシアの国民にとっては、ユダヤ人は有害無益な存在ではなかったわけです。

 そんな混乱をよそに、ハマンと王は酒を酌み交わしています(15節)。ユダヤ人絶滅を企む首相ハマンと、自分の身勝手で王妃ワシュティを退位させた王クセルクセス。絶体絶命の危機にあるユダヤ民族にとって、最悪の組み合わせです。

 そして、ここにあるのも酒。酒に酔い痴れるのは身を持ち崩すもとと言います(エフェソ5章18節)。ことがうまく運んでいる二人には美酒かも知れませんが、酒は人の判断を狂わせます。破滅の罠が忍び寄って来ているのに、それに気づかないまま突き進んでしまうこともあります。

 目を覚まし、神の言葉に耳を傾けなければなりません。酒ではなく、聖霊に満たされて、神をたたえる歌を歌いましょう(エフェソ5章18節)。主なる神がすべてをプラスに変えて下さるからです。

 主よ、モルデカイの行動が、おのが民を思わぬ危機に陥れました。それは古い確執でした。互いに相手を赦さない態度は、幸せを産み出しません。私たちに赦す心、敵を愛する力を与えて下さい。私たちは主から、限りなく愛を注がれ、すべての罪を赦していただいているからです。御国が来ますように。 アーメン