「主はあなたを苦しめ、飢えさせ、あなたも先祖も味わったことのないマナを食べさせられた。人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きることをあなたに知らせるためであった。」 申命記8章3節

 神は、イスラエルの民を荒れ野に導いて、その苦難の中で様々なことを学ばせ、味わわせ、そしてそこで、神の民となるための備え、訓練、試練を受けさせられました(2節)。冒頭の言葉(3節)に、「人はパンだけで生きるのではなく」と言われています。

 主イエスが公生涯の初めに悪魔の試みに遭われました(マタイ福音書4章1節以下)。主イエスが受けられた三つの試みの最初のものが、石をパンに変えて食べたらどうかという試練でした。この悪魔の言葉に対して、「よろしい、やってみせよう。私が神の子であることを証明する」とは言われませんでした。「『人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉によって生きる』と書いてある」と言われたのです(同4節)。

 つまり、悪魔の試みに対して、冒頭の言葉(3節)を引用することで、神の御言葉に従って生きることを示されたのです。ここで、「人はパンだけで生きるのではない」という言葉は、色々な論議を呼び起こします。パンを食べるから生きているのか、と問われたら、いや、そうではない、私はもっと高尚な存在だ、と言うでしょう。精神的なこと、霊的なことを考え、味わいながら生きているのだと。だから神の言葉を聞くというわけですね。

 けれども、それではパンはいらないのか、食べなくてもよいのか、とまた問われるのです。「武士は食わねど高楊枝」という言葉がありますが、「腹が減っては戦は出来ぬ」という言葉もありますね。パンではなく、主の口から出る言葉で生きるなんて偉そうに言ってるけれど、結局パンがなければ生きられないんじゃないか、という批判も聞こえてきそうです。

 このような考え方の背景には、パンは体のため、命のため。神の言葉は精神的なこと、霊的なことだから、体のためのパンよりも次元が高い、というような考えがあるでしょう。そこで、どちらが大事なのかという二者択一の問題として考えたり、また或いは、体のためにはパン、魂のためには神の言葉、両方必要だと考えたりします。しかし、ここで語られているのは、そのような問題なのでしょうか。

 私たちが現在置かれている環境は、主イエスがそのときに置かれていた状況とはまるっきり違います。今日、我が国では飢え死にしそうな人は、殆どいません。むしろ、食べ物が溢れ、腐らせて処分に困るくらいたくさん持っています。ダイエット商品が次々に発売されます。そういう生活をしている私たちにとって、この試練はどんな意味を持っているのでしょうか。もう既にパンで満腹になったから、あとは神の言葉を聞こうということでしょうか。

 ヘブライ語原典で、「主の口から出るすべての言葉」という言葉に、「言葉」という言葉はありません。直訳すれば、「主の口から出たすべて」となります。「言葉」は翻訳者が付け加えたのです。主の口から出るものだから、「言葉」だろうと考えたのでしょう。しかし、言葉だけではなく、「主の口から出るすべて」です。

 ヘブライ語の「言葉(ダーバール)」の複数形は「出来事(ドゥバリーム)」と訳されると、前に学びましたが、主が語られた言葉は行為となり、出来事となります。主が口を開かれたら、イスラエルの民のためのマナになりました。あるときはウズラが飛んできました。あるときは、水が湧き出ました。神は、言葉だけを下さったのではなく、生きるために必要なすべてのものを、御口を開いてお与え下さったのです。

 イスラエルの民は、それを荒れ野で日毎に経験したのです。神が生きておられるということを、この荒れ野で経験したのです。飢えた経験を通して、渇いた経験を通して、苦しみの経験を通して、主と交わり、主の口から出るすべてのものを味わうようにされたのでした。

 私たちも、この世の荒れ野状態の中で、嵐の中で、主がお与え下さるマナを味わっているでしょうか。生ける水を飲んでいるでしょうか。本当に神様との深い交わりに進みたい、本当にその恵みを味わいたい。

 どんな境遇にいても、そこが、神様が私たちに最善のものを与えようとして導いている場所であること、聖霊が私たちを導いて、神様との深い交わりに進ませようとしておられるということを、信じられる者は本当に幸いです。それを味わうことが出来る者は幸いです。神様は私たちをその幸いに導こうとしておられるのです。


 主よ、あなたは私たちに災いではなく。将来と希望、平安を与えようとしておられます。生き甲斐のある豊かな生涯を送らせようとしておられます。日々、命の御言葉を聴き、その導きに従って歩ませて下さい。特に、台風17,18号の進路にあたる地域の方々に、主の守りと導きが豊かにありますように。 アーメン